IllustratorとPhotoshopとFireworks
エクサートでセミナー事業を開始してから、アドビシステムズ社の「Adobe Xd」の講座をいくつか開催しました。
Adobe Xd(以下Xd)は、アドビシステム社のグラフィックツールという分類になるアプリケーションで、ウェブサイトにおけるプロトタイピング工程を担っています。
一般的に「グラフィックツール」と言えば、同じアドビのIllustratorやPhotoshopが思い浮かぶと思います。この2つアプリケーションは、もともとは1980年代に作られた紙への印刷物を生成する(パブリッシング)ことを目的として誕生したソフトで、今も現役バリバリのツールとして多くのクリエイターが使いこなしています。
IllustratorやPhotoshopは、パブリッシングを目的として誕生したアプリケーションと書きましたが、同じアドビには、かつてFireworksというウェブの画面制作を目的として開発されたアプリケーションがありました。現在はOSの環境などの問題から開発が中止となっていますが、このFireworksは私にとって思い入れの深いアプリケーションです。
1998年にリリースされたFireworksは、ウェブデザインがこれからクリエイターの主戦場になっていこうとしている時代に、IllustratorとPhotoshopを合体させた機能を持ったアプリケーションで、多くのクリエイターに受け入れられてきました。
Fireworksが特徴的だったのは、これまでグラフィックデザインを専門に行っていない、一般のサイト管理者(主に中小企業の担当者)にも受け入れられたことです。わたしは、Fireworksについては数冊の書籍や解説サイト、トレーニング動画や、セミナー・講座・トレーニングを行って来ましたので、そうした方々の意見はリアルに届いていました。
その中で、Fireworksが受け入れられた理由のひとつに「比較的操作が簡単」というポイントがあります。…というよりもIllustratorやPhotoshopはデザイナーが使用することを目的に開発されていますので、機能が多く、初心者には操作が難しく、正直に書くと「敷居が高い」という印象が強かったようです。特にPhotoshopはすべての描画をレイヤー単位で行うために直感的ではなく、どうしても敬遠されがちでした。
Fireworksなき現在、デザインの専門家以外の制作者がPhotoshopを使ってウェブの画面を作るのは苦労が多いようです。とはいえ、他に代替できるツールが存在しない今、ウェブの画面制作は、Photoshopを熟知しなければ生成することができないと言ってもよいでしょう。
Xdはクリエイティブツールではない
そんな状況の中、私が2016年の秋に出会ったのがXdでした。まず最初に感じたことは、画面制作を行うツールの数があまりにも少なく、よい意味ではシンプルなんですが、何かを作ろうと思うと「やる気があんのか?」と思わず独り言を呟いてしまったほどです。
ですが、そのシンプルな操作感覚は1998年にFireworksに出会った時のことを直感的に思い出しました。つまりIllustratorやPhotoshopはパブリッシング制作を前提としてあるがゆえに、多機能かつ複雑なインターフェースだったのですが、Fireworksは直感的でシンプルでした。さらにウェブ制作者にとって「印刷する機能」は全く必要なかったので、それを削ぎ落としてしまった潔さが好きだったのです。
同じことをXdにも感じます。印刷機能がないのは当然ですが(笑)、それ以外でもツールボックスの中は必要最小限のものしか用意されていません。矩形描画ツールは存在していますが、矩形以外に多角形や星型などは描画できません。
またFireworksでは大好きだった「ライブエフェクト」という派手なフィルタも存在しません(唯一ドロップシャドウがあるだけです)。
直感的なイメージはFireworksに似ているものの、全く異なるのは「Xdはクリエイティブツールではない」という潔さなのです。あくまでもウェブ制作フローで最も時間を要する「プロトタイピング工程」を、より快適に、よりスピーディに行うためのツールなのだと。このページで最初に「Xdはグラフィックツールという分類になる」と書きましたけど、それはいくつかの描画機能があるからに過ぎず、パブリッシングの業界で言えば、昔の「QuarkXPress」というDTPレイアウトソフトのようなイメージです(あえてInDesignと言いませんでしたw)。
それは、ウェブ制作が「戦略→設計→実装」という工程を踏まなければ成立しないことや、画面設計に関しても「ワイヤーフレーム→プロトタイピング→モックアップ」という工程で製造される時代になっているからでしょう。
ウェブやモバイルアプリの制作工程で、UIが重視されるようになったのは当然の結果ですし、そのプロセスの中で「ユーザビリティを確保するための工程」であるプロトタピングこそが、成果物の精度を左右する工程であるというのは、言うまでもありません。それは小手先のクリエイティブではなく、顧客の体験を重視するというよい時代になった証だと思います。
制作者としての私は、このプロトタイプを回す工程が最もエキサイティングであり、クリエイティブな現場なので、当分はXdにどっぷりと浸りそうです。